Hummming

フンフンフン

虹の足

会社の先輩が今週末誕生日だからささやかなプレゼント。
私が入社してすぐ隣の席になって、何かとお世話になった。
私の疑問を解決してくれたり。緊張をほぐしてくれたり。
社会人としての礼儀を教えてくれたりもした。
この間の席替えで今は離れちゃったけれど、それでも
遅くまで残っていると心配してくれたりする。
それは私たち新卒に対してだけじゃなくて、後輩みんなにそう。
後輩のみならずみんなから慕われている。みーんなから。
いつも輪の中心にいて、けらけらっと笑っている。
察するに、彼女は真正の人気者だと思う。


私ね、羨ましいんだ。それ。


私は昔から人気者に憧れていた。
いつも輪の中心にいて、一身に愛をうける人気者に。
クラスの中心で笑いをかっさらう男の子が羨ましくて
真似をしてボケてみたけれどダダスベり、なんてこともあった。
人気者たちと違ってうまく自分のポジションが読めずに
驕り高ぶったりいじめられたり軽く引きこもったりもした。
それでも人気者になりたくて、みんなから愛されたくて
漫才師を目指したり落語をしたり、汗だくで笑いをとって現在。
有難いことに私を慕ってくれる友達もたくさんできたけれど、
有難いことに私を「面白い」と言ってくれる人もいるけれど、
そんだけやってもね、所詮はメッキだから。
メッキが剥げた裏には暗い卑屈な自分がいて、
そいつは全然人嫌いだし人を羨んでウジウジしてる。
こーいうやつ、根っからの人気者には勝てないんだよなあ。


「太陽は僕の敵」
そんな言葉が頭の片隅を一瞬よぎる。
コーネリアスパーフリ解散後に出した音源の名前だっけ?
パーフリ解散後、ポップ路線に出た小沢は陽、それに対して
アンダーグラウンドな音楽を発表し続けた小山田は陰と評された。
メッキの裏側の自分の仕業だとは分かっているけれど
ややもすればその言葉に背後からぐわっと呑まれそうになる。
彼女を見ていると、たまにコンプレックスを感じてしまう。
ああなりたいな、という気持ちと、ああはなれない、という気持ち。
今日、社内のみんなから目一杯祝われる彼女を見ていて、つい。
おいおいお前はお世話になっている先輩を祝うんじゃなかったのか。
精一杯嬉しい顔をしようと思ったけれど、ちょっとむずかしかった。


・・・っていうこと(の一部)を同期に話してみた。
私の誕生日を祝って「おごりだ!」なんつってお寿司を食べながら。
ああ、何て贅沢な話なんだろう。幸せ者すぎる。
日本酒を1合頼んで3人で分ける。ほとんど私が飲むけど。
一口喉を通した瞬間、ぞくっと身震いした。
やっぱりこの時期はもう寒いよ、なんつって西千葉公園で飲んだ
学祭の打ち上げの日本酒の味が喉の奥でよみがえった。
嬉しかった思い出とか、切ない思い出とか、全部。
日本酒を飲んで涙をこぼす人や日本酒を愛する人の気持ちが
少しだけ分かったような気がした。


幸せっていうのは、虹の足なんだよね。