Hummming

フンフンフン

後悔、先に立たず

今朝、昨夜見た「君に届け」のことを思い出していて、
貞子はトキちゃんに似ているな、と思った。
何度もこのブログに出てきているけれど、トキちゃんは高校の同級生だった。
トキちゃんは静かで、自己主張しないし声は小さいし少し青白かった。
でも話してみるとすごく面白いので、少しずつ話しかける人が増えて
みんなに愛される不思議なキャラクターになっていった。


私とトキちゃんは席が近かったのですぐに仲良くなった。
小さな声を拾ってみると毒を吐いたり変なダジャレを言ったりしているのが
すごく面白かったので、私は休み時間のたびにその声を拾った。
またトキちゃんはお姉ちゃんの影響で日本のロックに傾倒していて、
くるりeastern youthなどを私に聴かせてくれた。
私が今愛してやまない中村一義原田知世は、トキちゃんが教えてくれた。
トキちゃんは、まるで深夜のラジオ番組のようだった。


彼女のことは謎だらけだった。
親が料理人で東京に出稼ぎに出ていると聞いた気もするし、
最初の家は火事に遭って今は建て直したんだか何だかと聞いた気もする。
自分のことをそこまで話そうともしなかったし、
話しても声が小さかったので聞き取れなかったのだと思う。
うちは大学進学が大半を占める進学校だったにもかかわらず
勉強嫌いのトキちゃんは専門学校に行くとか何とか言っていたけれど、
結局進学したのかどうかも、今どこに住んでるのかも知らない。


卒業式の日、ホームルームが終わって、
いろんな人と挨拶したり寄せ書きを書き合っているところに
他のクラスからはるばるトキちゃんが来た。
教室の外から私を見つけてアイコンタクトを送っていたけれど
ちょうど私は別の人と寄せ書きの交換か何かをしていたのだろう、
「ちょっと待ってて!」と彼女に声を投げた。
でもトキちゃんはそのままうちのクラスを出て
どこかにふらりと行ってしまった。
何だ、いつもの鬼ごっこかな、後で探しに行かなきゃ、
そう思っていたけれど、結局見つけられず、そのまま、それきり。


たまに高校の懐かしい友人と顔を合わせるたびに
「そういえばトキちゃんって今どこにいるんだろ、知らない?」
と聞いているが、誰もその後のことを知らない。


あのときの場面は、今も何となく忘れられない。
いろいろ話したいことがあったのにな。今もたくさんあるし。
あのとき、すぐにトキちゃんと会って話せばよかったな。
それは、後になって思うことであって、もう元には戻れないのだ。


どこかで元気でいるだろうか。また会えるだろうか。
そんなことを考えていたら家を出るのがすっかり遅れてしまった。