Hummming

フンフンフン

好きだなぁ、って

突然こんなチャンスが来たもんだから、何が何だか分からなかった。
でも、これを逃したら次はまたいつになるか分からないし、
言わなかったら結局今までと同じだから。
そう思って、言ってしまった。


私は音楽が大好きで、よくCDも聴くし、ライブにもよく行く。
好きなミュージシャンにはどれだけ親しく話させてもらっていても
敬意を持っている。


私はミュージシャンと恋愛をするなんてこと、
あっちゃいけないと思っている。それには色々理由があるけれど。
一つ目。
相手が「ファンに手を出したしょーもないミュージシャン」
と思われてしまうから。
二つ目。
ミュージシャンの中には立場を使って女を弄んでる人もいるから。
これは軽蔑。
三つ目。
それはあくまで気の迷いであって、
その人自身に惚れたわけじゃないかもしれないから。
四つ目。
他のファンに申し訳が立たないから。
あとは…今のところ言葉が出てこないな。とりあえずこんなもんか。


とにかく、ミュージシャンと観客、という境界線を
越えてしまってはいけないと思う。
それはファンである以上、最低限のルールだから。


でも、私は彼のことが忘れられなかった。
住まいが近い分、ライブ会場以外でも時々会った。
また会えないかな、会って話がしたいな、毎日毎日考えた。
少しでも会えるチャンスを増やしたくて、
帰り道のルートを、彼の家の近くを通るように変えた。
「バンドマンに惚れるなんてルール違反なんだからやめなさい。」
そう自分に言い聞かせた。
けれど彼のことを考えない日なんて一日もなかった。
バンドマンに対してこんな気持ちになったのは初めてだった。
ひょっとしてバンドマンじゃなくて彼という人が好きなのか。
でも、私は彼のことを何一つ知らない。
だからこそ、彼のことがもっともっと知りたい。
でもこれは一過性のもので、やっぱり気の迷いなのかもしれない。
毎日毎日、同じような思いの堂々巡りが続く。
そのうちどう接していいかわからなくなった。
彼との距離がつかめなくて。
どこに自分を位置づけていいかわからなくて、自由に話せなくなった。
会いたい。ライブがないから会えない。mixiでメールを送った。
メールが届くたびに、頭が真っ白になった。クリック一つに緊張した。
頭の中が彼でいっぱいになってしまった。
私はどうすればいいの?分からなくなった。


で、昨日。メッセで、あいつに相談した。
あんなに忘れられなかった、大好きだったあいつに
こんな相談を持ちかけるのは不思議な感じがした。
今でも彼以上の人はいないんじゃないか、と思ってる。
でも、彼には彼女がいる。この間なんて相談されたし。
彼には幸せになってほしい。いつも幸せであってほしいから、
相談に答えるし、最善のアドバイスをする。
話題がそれたけど、とにかくあいつに相談した。
色々話したけど、最後に言ってくれた
「自分の気持ちを大切にね」という言葉が嬉しかった。


今日。バイト帰りにため息をつきながら自転車を漕いでいると
後ろから話しかけてくる自転車。彼だった。
嬉しかった。驚いた。
彼の家までがあと100メートルちょっとしかないのが辛かった。
バイト、そして練習の帰りだそうだ。ギターを背負っている。
彼は何のバイトをしてるのかなー、と思ったら
家庭教師なんだそうだ。意外と同業。
中3で、やる気がなくて困っているとか。
「中3らしいギラギラが感じられない」と嘆いていた。
「男なんだからもっとしっかりしてて欲しいし、
 真剣にやらなきゃ成功には結びつかない、とか
 教えてやりたいんだけど」って。熱いな。
同業者として、素直にいい先生だと思う。
頭痛のことも聞いた。ストレスや何かで事あるごとに
薬に頼っている彼がすごく心配だったから。
私も一時期、カフェイン剤に頼りまくっていたことがあって、
今思えばあのときは本当に身体がおかしくなりかけていたから、
彼にはそうなってほしくなくて。でも、
「ストレスになるくらいだから人に言えない悩みじゃん。
人に言えないことは仕方がないよ。誰にでもあると思うし。
寝れば治るじゃなくて、すぐ治したいんだよね」
聞く耳を持ってくれなかった。少し哀しい。し、少し心配。
で、帰ろうとしたところで。迷った。すごーく迷った。
けど言わなかったらまた同じことの繰り返しだ、と。
攻めていくことに決めたんだ、と。自分に言い聞かせて、
ついに重い口を開いた。


「どうしたら、あなた好みのコになれますか?」
「気の迷いかもしれないとか、バンドに迷惑をかけたくないとか、
 色々考えたんだけど、好きだなぁ、って…」
そんなことを言ったと思う。
モゴモゴしてて、目も上げられなくて、情けない告白だった。


初めて、人に、真剣に、「好きだ」って言った。
意外と、そのキーワードは力を込めずに言えた。
結局、「その気持ちに応えてあげることは、できない」
「そういう風には、考えられない」って、ふられたわけだけど。


それから彼は、
「こんな事オレが言うべきじゃないかもしれないけど、
 誰かの好みになるとか、言わないほうがいい。
 るみるみちゃんのいいところもきっとあるはずだからさ。
 そんなこと言っちゃダメだよ。」
彼は頭をなでてくれた。ほっぺをつついてくれた。
いつもどおりの彼だった。
「ごめんね」と言ってくれた。謝らないで、と私は言った。
謝られたら私が痛い子みたいじゃん、と冗談まじりに。
もう、言わないよ。あんなこと。もっと自分を大事にする。
自信が持てるような自分になる。教えてくれてありがとう。
小雨が降っていた。
「濡れちゃうよ?本当にバファリンのお世話になっちゃう」
身体が大事なのは彼のほうなのに。
ライブで声が出なくなっちゃったら困るよ。


私は誓った。じゃあ、いいファンになる。
渋屋根も行くけど、「うわっ」って反応しないでね。
気にしないで、普通にして。
今思えば、それは私こそ辛いことだと思うんだけど、
でもそうありたいと思ったから。


言ったら、スッキリした。ふられたけど。
相手との距離がやっとハッキリしたから。
どういうポジションにいればいいのか少し分かった気がするから。
彼に恋をしちゃいけないんだ、って分かったから。
だからスッキリしたんだろうと思う。


今の気持ちは晴れ晴れとしている。
もっと自分を磨くんだ。きれいになるんだ。
彼ビックリするかな。喜んでくれるかな。
惚れてくれなくても構わないけど、
ずっと妹分のような存在でいたいと思う。
だって大好きだから。


多分、多分だけど、私はバンドマンに惚れたんじゃなくて、
彼という人に惚れたんだとおもう。そう信じている。
言うまで分からなかったけど。
今、当分恋はしなくていいや、と思えているから。
もし万が一誰かに告白されても断れる自信があるもの。
きっと、それは誰でも良かったんじゃなくて、
本当に彼に惚れちゃったから。
*1

*1:以上、裏日記より転載。一部修正。長文失礼。