Hummming

フンフンフン

恐怖感からの脱出

さっき両親は出かけた。
社会人管弦楽団のクリスマスコンサート招待券を
私がこの間二人にあげたので、それを観に千葉へ行った。
私はプリンタがどうにもこうにも動かなくなってしまったので
ああでもないこうでもないといじくっている。


チャイムがけたたましく鳴った。連打された。
そして薄っぺらい金物でできたアパート特有のドアを
ガガン!ガン!!って叩かれた。


こ、こわい。


私がパジャマ姿だったせいもあるんだけど
何だかすごく怖くて、玄関には出られなかった。
今度はチャイムをゆっくり一度鳴らして、またガンガン!と叩いた。
それでも私は玄関のある方向を見つめたまま出なかった。
むしろ必要もないのに息を潜めたくらいだ。


しばらくすると郵便受けに何かを入れて去っていった。
多分、宅急便じゃないかと思う。


分かってはいるんだけど、怖かった。
誰とも会わず一人でいるとすごく不安になる。
外で一人ぼっちのほうがまだ落ち着く。人がいるから。
でもここには自分の知りうる範囲に誰もいない。
もう誰にも会えない気がしてくる。


それは幼い頃、毛布にくるめられた時の恐怖と少し似ている。
洋間で遊んでいるとよく兄貴に毛布でくるめられた。
小さかった私は毛布の中にすっぽり入ってしまい
出口も見つけられずパニックになった。
そのうち兄貴が毛布を開いてくれるのは明らかなのに
もう一生ここから出られないんじゃないかと思っていた。
外の誰かに救出してもらおうと声の限り泣き叫んだら台所から
「お兄ちゃん、やめなさい」と母が声を掛けてくれたものだ。


今私はまるで大きな毛布の中にいるみたいだ。
でも声を限りに叫んだところで、誰も私を救出してはくれない。
それが、あの頃と違っているところ。


こんなことをしている場合じゃなかったんだ。
ゼミの勉強をしに学校へ行かなくちゃ。
そして皆がいるところへ早く逃げなくちゃ。


まずは着替える間の音楽を流そう。何を聴こうかな。